新しい時代に適応した組織運営にアップデートする【前編】トップダウンはなぜ時代に合わなくなっているのか

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限界を迎えつつあるトップダウン経営

従来の組織マネジメントが上手く機能しなくなってきている、そんな問題意識を原体験としてリアルに感じたのは10年ほど前です。その問題意識は日に日に大きくなり、ここ数年で「上手く機能していない」を通り越して「組織がおかしくなっている」という危機感を抱くようになってきました。

経営者の方々とお話ししていても、そこに明確な解を見出せていない方は多く、どこか違和感を感じながらも、それでも前に進むしか道はない、と自分自身を鼓舞するも、そこに従来の情熱を見出せなくなっている、そんな方が増えてきているように思います。

ある意識調査によると、「仕事に対して前向きに取り組んでいる」と答える従業員は、全世界平均で13%、またある日本での意識調査によると、「働く喜び」を感じていると答えた人は全体の14%となっており、現代における多くの人が、仕事にやりがいや意味を見出せないという結果があります。

これは、調査結果によるものだけでなく、現場に行っていても、ここ数年で働く人の意欲が著しく低下しており、組織に閉塞感や疲弊感、停滞感が蔓延していることを肌で感じます。

その背景には、様々な要素が複雑に絡み合っているため、一概にこれが要因と言えるものではありませんが、大きくは、私たちはこれまで経験したことのない時代に突入している、マネジメントシステムがその環境変化に適応できていないことが大きな要因としてあるように思います。

これまでの私たちが採用してきた組織運営の方法は、トップダウンによるガバナンスです。

トップダウンとは、組織の上層部が意思決定し、その実行を中間管理職を通して現場に指示する組織運営の方法のことを言います。つまり、上意下達を意味し、上からの指示に下が従うことを前提とした手法です。

この組織運営の方法は、経済成長、市場成長を前提とした組織運営モデルであり、低経済成長の時代に入り、人の意識も変わりゆく時代の中、徐々にこの組織運営の方法は限界を迎えてきているように思います。しかし、私たちはそれ以外の組織運営のあり方を体験してきていないため、実際のところ、なんとなくズレが起こっていることは感じながらも、何をどう変えればよいか分からない、ということが多いように思います。

次世代型の組織モデルとして注目されている「ティール組織」著者のフレデリック・ラルーは、「歴史を振り返ると、人類がこれまでつくってきた組織のタイプは、その時代に優勢だった世界観と意識にしっかりと結びついている。人類の意識が新しい段階に入ると、人々の協力体制にも大変革が起こり、新たな組織モデルが生まれたのである。私たちが今日知っている組織は、私たちの現在の世界観、あるいは今の発達段階を表現したものにすぎない。」と記しています。

今、時代はこれまでとは違う全く新しい時代へと移り変わろうとしています。人々の意識が大きく変わってきている中、旧来の組織運営のやり方に限界や歪みを抱えている組織がここ数年で一気に増えてきています。

そこで、今回は「新しい時代に適応した組織運営にアップデートする」と題し、全2回に渡って、トップダウンに変わり、これからどのような組織運営にシフトしていく必要があるのかについて、お伝えしていきたいと思います。

トップダウンが効果的な状況とは

前述の通り、現代の組織運営は、トップダウンが主流なのですが、もう少し言えば、トップダウンとは、トップに権限を集中させ、そこに階層区分(ヒエラルキー)と指示命令系統を整備し、目標管理、プロセスの標準化、実力主義といった合理的なマネジメントを取り入れ、組織全体を発展させていく運営手法です。

大きく分ければ、トップが強い求心力を持ったカリスマ型トップダウンと、合理的運営の要素が強い達成型トップダウンの2つが存在し、また、双方をミックスしたハイブリッド型トップダウンも存在します。

まず、トップダウンが効果的な状況下について考えてみます。

①トップが他の群を抜いて有能であること

まず、これが大前提です。トップダウンが効果的に働いているケースは、まずもって意思決定者であるトップが圧倒的に有能であること、そうでなければトップダウンにはなり得ません。トップダウンが機能している組織というのは、例外なくそこで働くスタッフのトップへのリスペクトがあります。「あの人の言うことだから」「私はあの人についていく」それぐらいのカリスマ性があります。逆にそのリスペクトがない中で強引にトップダウンで組織を動かそうとしても、それは恐怖政治による服従か、上が言うことだから仕方ない、というやらされ感となり、長期的には機能しません。つまり、トップダウンが機能している、ということはトップの有能さの証明でもあり、一定規模の組織においては、群を抜いた有能さがない中でのトップダウンは組織を崩壊へと招きます。

②トップのスタッフへの愛が大きいこと

これも絶対条件です。前述した「あの人の言うことだから」「私はあの人についていく」といった気持ちにスタッフがなぜなり得るかというと、もちろんトップの先見性や創造性、実行力の高さ、情熱に引っ張られるということもあるのですが、それだけでなく、トップが自分たちを大切に思う愛情を深く感じるからです。共に働くスタッフの健康を気遣い、家族を気遣い、ある意味従業員を家族のように大切に思っています。仕事は鬼のように厳しいけど、人間としてはとても優しい、緊張と緩和のバランスが絶妙であり、高い理想を追い求め突っ走る姿と人間的魅力の大きさに多くのスタッフは惹かれ、「この人のためなら」という気持ちを起こさせます。つまり、人の心を掴んで離さない人間力の大きさがトップダウンを可能にしていると言えます。

③明確なゴール設定が可能な市場環境

トップダウンというのは、シンプルに言えば、司令塔が一人(若しくは数名)おり、その他は司令塔が出す指示に従う、という組織構造です。つまり、司令塔が出す答えが正しければ、組織は大きく飛躍していきますが、司令塔が出す答えが間違っていたり(トップの有能さの問題)、そもそも明確な方向性を出しにくい環境下(市場環境の問題)というのは、トップダウンは逆に組織を迷走させるリスクが高くなります。明確なゴール設定が可能な市場環境というのは、モノをつくれば勝手に売れるという成長社会の時代を指します。高度経済成長期(1955年〜1973年の19年間)は、日本経済は年平均10%の成長を続けましたが、その後オイルショックを機に、成長率は10%から5%へと低下し、そこからバブル景気、バブル崩壊を経て、成長率2%の低成長時代へと突入、2008年を境に成長社会から成熟社会へ移ったと言われており(これまで増え続けてきた人口が2008年をピークに減少しはじめたから)、明確なゴール設定ができない(答えがない)時代へと移り変わっています。

④緊急的な対応が迫られる状況下

トップダウンの最大のメリットは、意思決定と実行の速さです。特に、今回のようなコロナ対応のように緊急性が高い局面においては、トップダウンが有効と言えます。例えば、コロナへの国の対応について、多くの人は政治(国のトップ)の意思決定の遅さ、判断にたくさんの不満をぶつけました。人間的な成熟が未発達な段階においては、危機を迎えると救世主を求める、という心理が働きます。つまり、自分で考え、判断するというよりも、誰か他の強いリーダーに答えを示してもらう、解決してもらうことを期待するわけです。それがよいことなのかどうかは別問題として、危機的な状況というのは皆がトップダウンを必要としている、だからこそ効きやすい、という側面があります。

⑤従業員が従順で勤勉であること

トップダウンは上位下達、上の指示に従うことを前提とした組織構造です。そのため、指示を受けるスッタフに最も必要とされるのは「言われたことをどれだけ早く正確にできるか」という素直さと真面目です。指示に対していちいち文句を言ったり、指示をきかないスタッフが多ければ、トップダウンは上手く機能しません。よくトップの期待として「積極性を持ってほしい」という話がありますが、ここで言う「積極性」とはあくまでトップが示す方向性の範囲内での「積極性」であり、その枠をはみ出ようとする「積極性」は求めていません。たとえそのスタッフがどれだけ有能であったとしても、トップとしては自分が示した範囲の中で動いてほしいわけです。それは言うなれば、「主体的積極性」ではなく「受身的積極性」とも言えます。

人や組織は時代の変化と共に進化していきます。同じく、リーダーシップの正解も時代と共に変化していきます。そのように考えると、カリスマリーダーというのは、時代の必然性によって誕生したリーダーであり、日本には「松下幸之助」「本田宗一郎」「井深大」「稲盛和夫」といったカリスマ経営者が多く存在しますが、令和という時代が要請するリーダーというのは、全く違う種のリーダーであるのかもしれません。

いずれにしても、このような外的要因、内的要因が上手くかみ合ったとき、トップダウンという組織管理の手法は上手く機能しやすくなります。

トップダウンによる生まれる副作用

しかし、その一方で、物事には必ず裏表があり、トップダウンによる副作用というものも存在します。つまり、良かれと思ってやっていたことの裏側で、気づかないうちに負の成果を生み出している、ということです。

①受身的体質の人材が増える

トップダウン最大の副作用は、「受身的人材」が増えることです。基本、言われたことをやることが役割となるため、自ら新しいことを企画したり、指示されたこと以上を考えたりする人材は少なくなります。そこにトップが嘆きます、「うちの管理者は指示待ちが多い、自分で考える力が弱い」と。当然です、そういうスタッフを求めてきたのですから。そこに「なぜ自分で考えて動かなのか」と問うても、それは「指示されていませんから」と言われるのがオチであり、どうしても指示待ち人材が増えてしまいます。特に、強烈なカリスマ性をもったトップとそこに従順な幹部・管理者という構造は、トップが引退した瞬間、司令塔を失うことを意味し、羅針盤を持たない組織は内部崩壊のリスクが高まります。

②仕事の意味を考えなくなる

指示されたことを遂行することに慣れていくと、徐々に思考停止状態に陥ります。つまり、その人にとっての目的は上から降りてきた指示を素早く正確に遂行することであるため、「なぜそれをやるのか」「何のためにやるのか」という意味を考えなくなります。トップダウンというのは、どうしてもコミュニケーションの流れが上から下になりやすいのです。もちろん下から上への流れもあります。しかし、あまりにもトップの統制が強い場合、「いっても無駄」「どうせ聞き入られない」という諦め感が蔓延し、とりあえず波風立てないよう、余計なことしないように、と目の前の業務をさばくことが仕事の目的になっていきます。

③トップ(権力者)への忖度が働く

トップダウンというのは、トップに権力が集中しています。それは、有能なトップであるからこそ、その意思決定権を委ねることが最も合理的ということなのですが、その反面、権力を持たない人からすれば、その権力者にどうしても忖度が働きやすくなります。端的に言えば、トップの意に反する意見はタブーになりやすく、皆トップの顔色を伺いながら仕事をし始める、つまりトップに認められること、受けいられることが組織で自身の居場所を確保するための必要条件となるため、どうしても自己保身が強くなり、一歩踏み込む力が弱くなります。そのため、仮にトップが権力の乱用によって誤った意思決定をしようとしても、誰も止める存在がいない、という事態に陥ります。

④管理者の真のリーダーシップを鍛える場面が少なくなる

強いトップダウンの組織は、管理者から降りてくる指示というのは、管理者発信の指示というよりも、トップ発信の指示であるということを現場は感じます。そうなると、管理者の立場からすれば自分の声で現場は動いているのか、トップの影響力の強さによって現場は動いているのか、自分のリーダーシップの実力の見極めが難しくなります。真のリーダーシップは組織の看板やポストが一切通用しない環境下でこそ分かるものですが、トップの影響力が強すぎるとどうしても、自分の実力を試す、という体験は得られにくくなります。また、問題が発生するといつもトップがいつも全面に出てくるような組織は、意思決定は常にトップによって行われるため、そうなると、必然的にますます管理者の修羅場体験が少なくなっていき、いつまで経ってもトップと幹部・管理者の実力差が埋まりません。

⑤上位下達のコミュニケーションに慣れすぎてしまう

トップダウンの組織のコミュニケーションの流れは基本的に上から下へタテの流れです。そうすると、上の指示に下は従う、ことが当たり前の組織観が出来上がっていきます。自らの体験により長年培ってきた関係性のあり方は、当然、自分が上司の立場となったときの部下との関係性のあり方にも影響します。つまり、上司の立場からすれば「部下は自分の指示に従うのが当然だ」という考え方からスタートすることになります。そうすると、その指示に反発したり、言うことを聞かない部下に苛立ちを覚えます。「なぜ言うことを聞けないのか、自分はこれまでそうやってきたのに」と。過去積み上げたきた体験というのは、どうしても自分にとっての前提となっていくため、そこを揺らがす存在に対しては、どうしても否定したくなります。

このような副作用は、組織の成長という果実の裏にある「影」なのですが、その果実がどんどん大きくなっている状態のときは「影」の存在に気づきません。しかし、徐々に成長が鈍化したり、様々なトラブルが生じることで、嫌が応でも目を背けてきたこのような副作用と直面しなければならないタイミングが必ずやってきます。

なぜトップダウンが時代に合わないのか

ここまで、トップダウンが機能しやすい環境下、トップダウンの副作用についてお伝えしましたが、最後に、なぜトップダウンが時代に合わなくなっているのか、その理由について考えてみます。

①もはや誰も明確な答えをもっていないから

今日、私たちを取り巻く環境はVUCAの時代と言われています。これは、Volatility(変動制)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を並べたものであり、これからどうなるか先が全く読めない、不確実かつ不透明な経営環境を意味します。その最たる例が今回のコロナです。コロナにような感染症により世界がここまでの混乱に陥ることを誰が予測していたいでしょうか。もはや未来を予測することは何の意味を持たない、大企業のトップでさえも「答えがわからない」と言われる中、組織運営の舵取りはひと昔前より、かなり難易度が高いものにってきています。

トップダウンが機能する環境下というのは、モノをつくった分だけ売れるという成長社会です。成長社会は、市場が需要>供給の状態であり、売り手よりも買い手が多い状態です。まさに群雄割拠の戦国時代であり、強いものが勝ち残ります。いかに必要とされているサービスを大量かつスピーディーに行き渡らせるかが問われる時代であり、過去やったことを繰り返しせば自然と売上も伸び、組織も成長していく、そこには強いリーダーシップと合理的な組織運営が最も効果的でした。

現在、私たちを取り巻く環境は成熟社会です。これまで増え続けてきた人口が2008年をピークに減少しはじめたことを前述しました。日本の人口が今度どうなるかは予測できませんが、人口動態と経済成長は密接な関係があるため、このまま人口が減っていけば、経済はますます縮小していくことは避けられそうもありません。成長社会は過去やってきたことの積み重ねにより未来を描けましたが、成熟社会では過去やってきた成功体験の積み重ねでは未来を描けない時代です。現在は、古いパライダムから新しいパラダイムへの移行の過渡期にあります。つまり、新しい時代を生き抜くための成功体験がまだ積み上がっていないのです。そのため、トップでさえも明確な答えを示すということが極めて困難な時代であり、権力の一極集中は、組織の一体感とスピード感を作りやすいというメリットが大きい反面、誤った判断が組織全体を沈没させることリスクを内包しています。

②多くの人は答え合わせてに飽きているから

トップダウンというのは、上意下達のコミュケーションです。つまり、トップから先に正解が示され、その正解に現実を近づけるのが管理者及び現場のすべきことです。その速さと正確さが評価指標です。幹部・管理者はトップの顔色を伺い、現場は管理者・リーダーの顔色を伺い、何が正解かを探る。そんな働き方、生き方に多くの人は疲れてきています。つまり、多くの人は「答え合わせ」に飽きてしまっています。人は「答え合わせ」をしたいのではなく「創作」をしたいのです。つまり、言われてことをやるのではなく、自分なりに試し、体験したいのです。これは時代の動機です。なぜ答え合わせが機能したかとを言えば、正解した分、出された問題を解いた分、物質的報酬という恩恵を受けてきたからです。これが成長社会の特徴です。しかし、成熟社会は精神的報酬を求める時代です。精神的報酬とは、仕事のプロセスそのものから得られる報酬です。

慶応義塾大学教授の前野隆司氏は幸福学の研究をされており、著書「幸せのメカニズム」によると、高度経済成長だろうと、オイルショックだろうと、バブル景気だろうと、失われた十年だろうと、リーマンショックだろうと、日本人の生活満足はあまり変わっていないことを示しています。つまり、一人あたりGDPが増え、モノは豊かになったとしても、人間の幸福度はたいして変わっていない、ということです。そして、前野氏は、「では幸せは何と関係するのか」「幸せとはどんな要因と関係するのか」を研究し、その結果から現代人の幸福度に影響する4つの因子を明らかにしました。

一つ目は、「やっみよう」因子、これは自己実現できてるか、自分の強みを生かせているかといった個人的成長を表す因子です。2つ目は、「ありがとう」因子、これは、他者に感謝されたり大切にされてると感じるか、また他者への感謝や喜ばせたい気持ちがあるか、といった他人に向かう因子です。3つ目は、「なんとかなる」因子、これは、前向きさや楽観性といった今の状況を柔軟に受け入れる因子です。4つ目は、「あなたらしく」因子、他人と自分を比較しない傾向や自分をはっきりもっているかどうかの因子です。これらの4つが、現代人の幸せの70%を占める「心の幸せ」であると言っています。

また、別の研究によると、音楽、絵画、ダンス、陶芸などの美しいものを見るよりもそれらを創造するほうが主観的幸福度が高い、という結果があります。実は、美しいものを多く鑑賞しているひとは、思ったほど幸せではなかったことが分かったそうです。つまり、その場の感動は幸福度に影響しないということです。一方で、何かをつくっている人はみんな幸せ、ダンスを見るよりも演じるほうが、圧倒的に楽しくて充実感がある、ということです。コロナによってキャンプ需要が増えてきていますが、もちろん密を避けるためにという理由からではありますが、終わりなき資本主義というゲームに飽きた現代人が、大自然の中で創造的に生きたい、という人間の動物的本能の叫びとしてブームが起こっているようにも思います。

つまりは、現代は、物資的報酬よりも精神的報酬を求める時代であり、精神的報酬とは、自分らしく生きること、自分が主体となって何かを創造していくことが要因である以上、「言われことをただ遂行する」という仕事は、もはや現代人にとって苦行でしかないのかもしれません。

③仕事に意味を見出せい人が増えてきているから

更にはミレニアム世代のニーズにマッチしないという理由が挙げられます。ミレニアム世代は、仕事に意味を求める世代です。つまり、「なぜそれをやるのか」「やる意味があるのか」ということに非常に敏感なわけです。そのため、単純に「組織の決定だから従う」という論理には心理的抵抗を強く持ちます。更には、前述した「自分らしく生きたい、創造していきたい」といったニーズは、今の時代を生きる人共通のニーズではありますが、ミレニアム世代の方がより顕著であるため、トップダウンの組織運営とは相性がよくありません。

トップダウンとは、役割・指示命令・ルールといった外発的動機づけにより人を動かします。実は、外発的動機づけというのは楽なんですね。「目標だからやってね」「組織の方針だから従ってね」という動かし方は、トップダウンの理屈としては何も間違っておらず、理屈をベースに最終的には「組織が決めたことだから」で押し切れるんです。しかし、人が求めていることが「正解探しではなく、創作すること」であれば、より必要となってくるのは対話やフィードバックを駆使した内発的動機づけによって人を動かすコミュニケーションです。なぜ対話やフィードバックが必要かというと、そもそも「自分は何を創作したいのか」という自己の動機に気づいている人の方が圧倒的に少ないからです。「意味を求めながらも意味が見出せない」のが現代病であり、多くの人は「あなたは何がやりたいのか」と聞いても「分かりません」「特にありません」と言われるのがオチです。それに人は十人十色、人が変われば動機も変わる、より難易度が高くなります。

ちなみに、「ゆとり教育は失敗した」と言われていますが、その実態は、ゆとり教育とは決して甘やかしの教育ではなく、「生きる力の核とな豊かな人間性を育む」という崇高な教育理念を持っていながら、ただ現場での教師の力量が追いついていなかった、というのが実際のところです。それまでの教育は「読み、書き、そろばん」といった基礎的な能力を教育することが主目的であったため、全国一律のトップダウン教育が効率がよかったわけです。しかし、ゆとり教育のような人間性中心の教育は、極めて高度であり、教師の力量や資質が要求される、それが全国一理に導入されたことが最大の問題だった、と言われています。「与える教育」から「引き出す教育」へ、これは教育におけるパラダイムシフトなわけです。これまで学力重視の詰め込み教育を受けてきた教師が、生きる力を強化するための教育を手がけるというのは、おたまじゃくしがカエルに生まれ変わるぐらいに変容が必要になります。それと同じで、組織運営においても、ミレニアム世代の心に火をつけるためには、一方通行のコミュニケーションから双方向のコミュニケーションへのパライダムシフトが必要とされています。

④2代目・3代目経営者はトップダウンを好まないから

近年、多くの法人で世代交代が進んでいます。創業者から二代目へ、二代目から三代目へとバトンが渡されるわけですが、多くの場合、二代目・三代目の経営者は強いリーダーシップによるトップダウンの方法をとりません。といいますかむしろ先代とは、全く違うリーダーシップをとるケースが多いように思います。それは、次にバトンを引き継ぐ者として、最も近距離から先代のやり方を見ていると、どうしても反面教師になりやすいからだと思います。そこに親子という血縁関係が絡めば尚更です。医療福祉の業界は多くは世襲制をとるため、親から子へバトンタッチをするというのは、仕事上の関係性では割り切れない私的感情がどうしても入り込みます。

創業者というのは、良くも悪くもワンマンです。こんないい方をすると怒られるかもしれませんが、基本、自分が絶対、強引でありワガママです。しかし、そのワガママさは決して自己中心性に基づくものではなく、「社会にとってどうか」「みんなにとってどうか」という共通善に基づいています。つまり、自分なりの強固な価値決定基準、理想像を持っており、「自分が世界に合わせる」のではなく「自分の理想に世界を合わさせる」という方法をとります。そこにたくさんの人が共鳴し、ついていく、これがいわゆるカリスマ性と呼ばれるものです。ある意味、ブルドーザーのように周りの声を無視しても直進していくパワーが組織全体を飛躍させていく原動力となるため、ワンマンは決して悪ではなく、成長社会においては大正解だったわけです。しかし、時代も移り変わり、その最も近い位置からそのやり方を見ている後継者からすると、どうしてもプラスよりもマイナスの側面の方がクローズアップされやすくなります。そのため、どこか心の中で「自分はあのようなやり方はしない」という思いを秘めながら、初期段階は、先代とは全く違うアプローチで組織を運営します。それが、時間の経過と共に、先代のプラスの面も継承していくわけですが、どうしても最初は逆のアプローチに行きやすいように思います。

性格的にも、激情型でパワフルな創業者と比べると、二代目は芯を持ちながらもソフトで温和な方が多い印象です。そのため、自分の考えを押し通すということは少なく、皆の声をきちんと耳を傾ける中で決断を下す、というスタイルをとります。変化というものは、欠損した部分を埋めようとしたり、現状を否定するエネルギーから起こるため、強いトップダウンの次はコンセンサスを重視する経営スタイルになる、というパターンが比較的多いように思います。ただ、トップダウンの性質は、二代目も間違いなく継承しているため、親子の関係性の深まりと共に人格も統合され、必要に応じて強いトップダウンを発揮できる、よりスケールアップしたリーダーへと成長していきます。

成長社会から成熟社会へ、物資的報酬から精神的報酬へ、トップの世代交代、このような様々な要因が絡み合い、これまで機能していたトップダウンという組織運営は、徐々に現状とズレを起こしてきているように思います。

では、これからの時代における組織運営のあり方はどのような姿なのでしょうか、私たちは答えのない未来にむかって、どのように組織をつくっていくべきなのでしょうか。次回は、トップダウンに変わるこれからの組織運営のあり方について探ってみたいと思います。

最後まで読んでいただき、有難うございました。

著者プロフィール 渥美崇史

  • 1980年静岡県浜松市生まれ。株式会社ピュアテラックス 代表取締役。
  • 2003年、大学卒業後、ヘルスケアに特化した経営コンサルティンググループに入社し、評価制度や報酬制度の設計などの人事コンサルティングに従事する。その後、戦略や仕組みだけでは経営が改善されない現実を目の当たりにし、それらを動かすマネジメント層の教育に軸足を移す。2009年、マネジメントスクールの新規事業を立ち上げ、事業責任者を務める。約30,000人以上のマネジャーの成長を支援する事業に育てる。
  • その後、自社の運営にもマネジャーとして携わる中、トップの世代交代による経営危機に直面する。業績低迷、社員の大量離職が続く中、学習する組織、U理論といった組織論・変容理論に出会い、自身の人生観が180度変わるほどのインパクトを受ける。その知見を社内に持ち帰り、約2年間をかけて新しい組織文化への変革に取り組み、 当時の過去最高利益を達成する。その実体験と理論をベースにクライアントの組織変革を始める。
  • 2016年、13年間勤めた会社を退職し、独立する。社名の由来である”命の輝きを照らす”をミッションに、人間主体の組織マネジメントへの変革と自己のオリジナリティを生かしたリーダーシップ開発に力を入れている。
  • 好きな書籍は「自分の中に毒を持て」「星の王子さま」。自由・冒険・探求がキーワード。犬並みに嗅覚が鋭い。この世で一番嫌いなものはオバケ(極度の怖がりのため)。射手座AB型二人兄弟の次男。
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