人生は駅伝、次の世代に何を継承するのか

2021.10.12

コラム

生きる

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超長期戦略

私事ですが、あと2ヶ月で41歳を迎えます。

昨年40歳を迎え、いよいよ40代に入ったのか、、、と未だに年をとるという現実を受け入れらないまま、あっという間に1年が過ぎようとしています。

あらためて振り返ってみると、40年を生きてきたということは、実はとてもすごいことなんじゃないかと、内心思っています。40年ですよ、40年。よく生きてこれたなと。ただ心は全く成長せず、今でも5歳児のままですが。。。

40歳の年を過ごしてきて、なんとなく心境の変化が生まれつつあります。

それは、人生ではどうにもならないことがあると。

絶望というか諦めというか、それは決してネガティブな感じではなく、どちかと言えば開き直りに近いような、、、つまり、どうにもならない現実ってあるよね、ということです。

基本的には理想主義かつ現実主義の狭間を行き来しながら生きているので、自分の中で実現したい世界といういうか、こんな社会でありたいという理想があり、一方ではそれとは違う現実があり、じゃあ理想に少しでも現実を近づけるために何ができるか、という発想になるのですが、そうはいってもどうにもならないあまりにも厳しい現実が目に前には山ほどあるなと思います。

例えば、差別の問題とか、人権の問題とか、ジェンダーの問題とか、社会的格差の問題とか、別に社会問題に関心があるわけではありませんが、「自分の100と相手の100が共存する社会」というのが自分が生きたい世界なので、こういったテーマは自然と心にひっかかります。

で、そうはいってもこういった問題は、決してなくなることはないよな、少なくとも自分が死ぬまでに解決できる代物でもないよな、なんせ人類は何千年もこういった問題を抱えながら今なおその問題を抱えて続けているわけなので、一朝一夕でどうにかなる話ではありません。

そう考えたときに、どうにもならないから何もしないのか、どうにもならないかもしれないけど、それでも自分にできることをやるのか、という2択に迫られるわけですが、そうなるなったらやっぱり後者一択しかありません。

ただ粛々と自分にできることをこなすだけです。

それはやりがいとかそんな綺麗ものではなく、ただひたすら地味で泥臭い毎日の積み重ねです。

そして、仮に自分が死ぬまでに解決できないのであれば、そのバトンを次に渡すことがより重要になってくるのでは、最近そう思うようになりました。

だから、少なくとも200年は続く会社にしようと、であれば、仮に自分の命が尽きたとしても、事業とフィロソフィー(魂)さえ次の世代に継承していくことさえできれば、自分が生きたいと思う世界に近づく確率が1ミリでも上がるかもしれないと。

超長期戦略です。

スチュワードシップの精神

スチュワードシップという考え方があります。

日本語に訳すと、「受託責任」という意味ですが、もう少しわかりやすく言えば、「自分が受け継いだ資産をより価値を高め次世代に継承していく責任がある」という考え方であり、引き継いだものは決して自分のものではなく、子孫や社会から預かったものであり、それを守る番人としての精神のことを意味します。

資産とは、目に見える経済的価値のみならず、組織やコミュニティといった社会関係資本や目に見えない信頼などの情緒的価値も含めです。

このスチュワードシップ(受託責任)の精神が、同族経営においては特に重要と言われます。

主にコーポレートガバナンス(企業統治)で使われる言葉ですが、実は誰にもとっても大切な考え方ではないかと思っています。

言い換えると、人生をマラソンと捉えるのではなく、駅伝として捉えるということです。

仮にマラソンとして捉えるのであれば、自分がスタートとして自分で終わる、ペース配分をしながらも最終的にはいかに自分がどこまでいけるかを考えればいい。

一方、駅伝として捉えるのであれば、より重要なのでは自分の番で絶えないこと、受け取ったタスキを次の走者に渡すことことになります。

例えば、SDGsで言われる持続可能な社会というのはまさスチュワードシップの考え方そのもので、自分たちだけのことを考えたら、今の自分たちの欲求を満たすことだけをやっていたらいいのかもしれない。

でも、それをこのまま続けたら、自分たちの子供が親世代になったとき、更には孫の世代になったとき、地球は壊れてしまっているかもしれない。

そうならないためにも、受け継いだ資産をより良い状態で、次の世代に繋いでいく責任が今の時代を生きる私たちにはあるのでは、という問いかけなのだと思います。

4代目として星野温泉旅館を引き継ぎ、現星野リゾート代表の星野佳路氏は、次にように述べています。

「駅伝では、どんなに早く走っても、タスキをつなげなれば、そこで全てが終わります。早く走って区間賞をとることも立派なことですが、逆風にさらされた区間を、ゆっくりとでも走り抜き、できだけ順位を落とさす、可能ならば上げて、より良い状態で次の走者に渡す。それが自分の役割である。そういう心境に至ることが、ファミリービジネスにおけるスチュワードシップではないかというわけです」

人生をマラソンとして捉えるのと、駅伝として捉えるのでは、視野が全く変わってきます。

これは自分にとっては革命的でした。

仮に70歳で現役を終えることを想定して残り30年で何をどうするのか、という発想と、200年続くことを想定した中で、第一走者として最初の30年間で何を手がけるのか、では全く発想が変わってきます。

30年ではできないことも、200年あればできるかもしれません。

可能性が一気に開けたような気がしました。

これは、経営者に限った話ではありません。誰にでも共通する話だと思います。

自分の命を祖先から繋いでもらったタスキとして捉えるであれば、もはやそれを自分だけの命として捉えるのは傲慢なのかもしれません。

当然、そこにはプラスの資産もあればマイナスの資産、負債もあります。

むしろ引き継ぐ側はマイナスの方が強調されやすいかもしれません。

それでも、先代(先代の経営者であり、自分の親であり祖先であり)は何を繋ごうとしてくれたのか、何を必死に守り渡そうとしてくれたのか、また、どのような果たせなかった無念があるのか、言葉なるものならないもの含め、その想いを汲み取り、自分の時代でどう昇華させ、どう浄化させ、次の世代に引き継ぎていくのか、それが、タスキを渡された側の責任なのかもしれません。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

著者プロフィール 渥美崇史

  • 1980年静岡県浜松市生まれ。
  • 2003年、大学卒業後、ヘルスケアに特化した経営コンサルティンググループに入社し、評価制度や報酬制度の設計などの人事コンサルティングに従事する。その後、戦略や仕組みだけでは経営が改善されない現実を目の当たりにし、それらを動かすマネジメント層の教育に軸足を移す。2009年、マネジメントスクールの新規事業を立ち上げ、事業責任者を務める。約30,000人以上のマネジャーの成長を支援する事業に育てる。
  • その後、自社の運営にもマネジャーとして携わる中、トップの世代交代による経営危機に直面する。業績低迷、社員の大量離職が続く中、学習する組織、U理論といった組織論・変容理論に出会い、自身の人生観が180度変わるほどのインパクトを受ける。その知見を社内に持ち帰り、約2年間をかけて新しい組織文化への変革に取り組み、 当時の過去最高利益を達成する。その実体験と理論をベースにクライアントの組織変革を始める。
  • 2016年、13年間勤めた会社を退職し、独立する。社名の由来である”命の輝きを照らす”をミッションに、人間主体の組織マネジメントへの変革と自己のオリジナリティを生かしたリーダーシップ開発に力を入れている。
  • 好きな書籍は「自分の中に毒を持て」「星の王子さま」。自由・冒険・探求がキーワード。犬並みに嗅覚が鋭い。この世で一番嫌いなものはオバケ(極度の怖がりのため)。射手座AB型二人兄弟の次男。
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