管理職のなり手を、どう増やしていくか ― 管理職を引き受ける人が減っている組織で、今起きていること ―
多くの医療・福祉組織で起きている「静かな連鎖」
今、多くの医療・福祉組織で、
とても似た構造が起きています。
経営層は、まず収支を合わせなければならない。
業績が下がる。
目標が未達になる。
この恐怖は、言い換えれば、
内臓をえぐられるような「死の恐怖」に近い感覚があります。
この恐怖に飲み込まれると、ほぼ反射的に、防衛として起こります。
「指示した通りに動け」
「余計なことはするな」
「責任は俺(私)が取るから」
短期目線のコントロール型のマネジメントです。
そんな経営層のプレッシャーを受けた管理職は、
その圧を受けながら育ってきたため、
精神的には疲弊していても、
「これは自分の責任だ」と引き受ける。
必死に、歯を食いしばって踏ん張る。
しかし、現場の一般職は、
その姿を、ちゃんと見ています。
そして、心のどこかで、こう思う。
「自分は、ああはなりたくない」
「管理職ではなく、違う道を探そう」
こうして、
管理職の道は、静かに閉ざされていきます。
人は、正論では動かない
ここで、一つのシンプルな法則を紹介します。
人の行動の強度は、
魅力(メリット) × 可能性
この掛け算で決まります。
例えば、
「水だけで3日生活したら1万円あげます」と言われたら、
やるでしょうか。
多くの人は、やらない。
では10万円なら?
少し揺らぎます。
では100万円なら?
「やってもいいかも」と思う人が出てきます。
しかし、同じ100万円でも、
「水だけで7日間」と言われた瞬間、
「それ、本当にできるのかな…」
可能性が下がり、離脱する。
人はいつも、
「魅力があるか」と「自分にできそうか」で動いています。
行動の強度=魅力(メリット)×達成可能性
これは、とてもシンプルで、
そして、とても分かりやすい法則です。
管理職は、本当に「魅力的」だろうか
では、ここで問いです。
あなたの組織で、
役職に就くメリットは何でしょうか。
即答できるでしょうか。
・給料が上がる
これは最も分かりやすい魅力です。
しかし実際には、夜勤がなくなり、
一般職より年収が下がってしまう
“逆転構造”も少なくありません。
・裁量が増える
決められたことをやる方が安心な人もいますが、
自分で決めたい人にとっては、大きな魅力です。
・成長できる
自由と責任はセットです。
そして、責任を引き受ける経験こそが、
リーダーを最も成長させます。
・なんとなく格好いい
「あんな管理職になりたい」
そう思われる存在であること自体も、
一つの魅力かもしれません。
それでも、なり手が出てこない本当の理由
では、可能性はどうでしょうか。
私は、
この「可能性」が以前よりも下がっていることこそが、
リーダーの成り手が減っている最大の要因だと感じています。
これは
「自分ではリーダーとしてやっていけるのかどうか」
という可能性の話です。
今、多くの若手は、自信がありません。
責任の大きなに耐えられるほど心の余裕もありません。
これは、本人の問題ではありません。
社会関係資本が低下した時代に生まれ育った
社会全体の病です。
・何かあっても大丈夫だ、という感覚
・失敗しても、誰かが助けてくれるという安心感
それらが、圧倒的に不足している。
「いずれ良い社会が来るから、今は頑張れ」
そんな言葉は、
良い時代を知らない世代には、
もはや空虚です。
だからこそ必要なのは、
漠然とした安心感を、組織が意図してつくることです。
・リーダー一人に責任を集中させない(役職の分散化)
・失敗しても個人を責任追及しすぎない(責任の共有)
・リーダーが孤立しない構造をつくる(メンターの存在)
・本音で弱音を吐ける場を用意する(ピアサポート)
・応援されていると感じられる文化を育てる(ポジティブアプローチ)
「やってみてもいいかもしれない」
「仮に失敗しても、自分は守られている」
この感覚がなければ、
誰も前には出ません。
リーダーは、育てられるのか?
答えは、
YESです。
ただし、気合ではなく、文化と構造が必要です。
育てる、という発想よりも、
リーダーが健康的に育つ環境をつくる。
そのためには、従来のマネジメントスタイルからの
大きな意識転換が必要不可欠です。
さて、本年も、皆さんと多くの学びの機会をご一緒できたことに、
心より感謝しております。
来年が、皆さまにとって
そして組織にとって、
一歩でも「より良い未来」に近づく一年となることを
願っております。
どうぞ、良いお年をお迎えください。
※写真は、11月に山中湖から撮った富士山です。
著者プロフィール 渥美崇史

- 1980年静岡県浜松市生まれ、浜松市在住。
- 2003年大学卒業後、ヘルスケアに特化した経営コンサルティンググループ、株式会社日本経営に入社し、医療・福祉の人事コンサルティングを行う。
- 2010年から同社でのマネジメントスクールを新規に立ち上げる。
次世代の組織運営とリーダーのあるべき姿を模索する中で、「学習する組織」「U理論」「NVC」など、人と組織の覚醒と進化を促すソーシャル・テクノロジーに出会い、自社の部署運営や同スクールでの実践を繰り返しながら延べ約30,000人以上のリーダーを支援する事業に成長させる。 - シニアマネジャーを経て、13年間務めた同社を退社。
- 2018年、株式会社ピュアテラックスを設立する。
- 趣味は、マラソン、ピアノ、キャンプ、占い。座右の銘は「人事を尽くして天命を待つ」
関連記事
-
ゆるい職場に危機感を覚える若手 リクルートワークス研究...
-
2025.07.07
経営においては「売上が上がるとコストも増える」と考えるの...
-
世界で奮闘する女性リーダー 連日、新型コロナへの現状や...
