ホワイトすぎて若手の離職が増えている件をどう考えるべきか

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ゆるい職場に危機感を覚える若手

リクルートワークス研究所が実施した「大手企業新入社会人の就労状況定量調査(2021)」の結果から、「ゆるい職場」が若手の離職率を上げている(2009年卒20.5%→2017年卒26.5%)、という調査結果が話題になっています。

まず、ここで言う「ゆるい職場」とは何を指しているのかですが、大きく以下の2点が挙げられています。

1点目は、労働時間の減少

2点目は、叱られる機会の減少

です。

ひと昔前までは、パワハラやセクハラ、長時間労働、残業代の未払いなどが常態化した企業はブラック企業と呼ばれ、問題視されてきましたが、早くも大企業では揺れ戻しが起こり、ホワイトすぎて辞める若者が増えているという現象が起こっているようです。

ちなみに、若手が現在の職業環境における状況をどう感じているかについては、

  • 自分は別の会社や部署で通用しなくなるのではないかと感じる(48.9%)
  • 学生時代の友人・知人と比べて差をつけられているように感じる(38.6%)
  • このまま所属する会社の仕事をしていても、成長できないと感じる(35.0%)

といった回答を示しています。

つまり、ここで挙げられる「自分が成長できていないのではないか」という不安は、職場環境のゆるさが起因している、という考察です。

上司の立場からすれば、叱ればパワハラと言い、叱らなければゆるすぎると言う、

「一体どっちなんだ!?」という気持ちになってもおかしくありませんが、

人は過剰過ぎると不足部分を求めるため、ないものねだりのようにも見えます。

ここで大切なのは、

「それならこれらの若手には厳しくしなければ!!」

と発想するのではなく、

時代環境問わず、そもそも人間が本能的に求めるものは何か、

という原理原則に立ち返ることではないかと思います。

※文中の図表「出典:リクルートワークス研究所「大手企業新入社会人の就労状況定量調査」(2021)」

「心理的安全性」とは「仲良しこよし」ではない

端的に言えば、人間が本能的に求めているのは、「父性」と「母性」です。

父性とは成長であり、母性は受容です。

もう少し言えば、父性とは、厳しさであり、挑戦であり、結果であり、目標であり、現実であり、

母性とは、優しさであり、温かさであり、プロセスであり、繋がりであり、理想です。

つまり、人は若手であろうと幹部であろうと誰であろうと「成長したい」「結果を出したい」という欲求と「受容されたい」「安全でありたい」という欲求を併せ持っており、

この2つを常に自分が身を置く環境(職場)に求めています。

本能的と言っているのは、これは顕在化している(自分で気づいている)場合もあれば、顕在化していない(自分で気づいていない)場合もあるからです。

例えば、結果を追い求める人も一方では結果を出さなくても受け入れてほしいという潜在ニーズを持っており、他者との繋がりを重視する人も一方では冷たい自分でも受け入れてほしいという潜在ニーズを持っています。

これらのニーズがどちらか一方でも満たされていないと人は不安を感じ、そのニーズを違う形で満たそうとします。

この「ゆるすぎて若手が辞める」という現象は、職場の父性機能が低下しており、それを敏感に察知した若手の不安の声の表れなのだと思います。

リクルートワークス研究所の調査では、4人に1人が叱られたことが一度もない、という結果が出ていますが、上司から叱られたことがない新人が「上司は自分に関心がないのかなと思ってしまう」というコメントをしています。

「叱り」は愛情表現の一つです。

上司の立場からすれば、気を使っているつもりが、部下からすれば「自分に関心がないのでは」つまりは「自分は必要とされていないのでは」という無関心さとして写ってしまっているというミスマッチが起こっています。

近年、グーグルの労働改革プロジェクトを皮切りに「心理的安全性」という概念が組織マネジメントに取り入れられていますが、どこか言葉だけが一人歩きしており、心理的安全性の高さが、ゆるい職場として認識されてしまっているきらいがあります。

本来、心理的安全性が高いとは、

本音が言える、

違いを受け入れてもらえる、

失敗を恐れず挑戦できる、

と言った意味だけでなく、

相手に対して、厳しい要求が言える、

と言った意味合いも含まれています。

そもそも心理的安全性とは、チームのためや成果のために必要なことを発言したり、挑戦したりしても安全だと思える(罰を与えられたりしない)職場を意味します。

つまり、目的や成果のためには立場関係なく必要が議論ができる、それによって健全な衝突が起こる職場というのが心理的安全性が高い職場であり、決してお互いの意見を目的もなくただ受容し合う仲良しこよしの集団ではありません。

一方、結果を出すためには、どれだけ働かせてもいい、何を言ってもいい、何をしてもいい、という人を機械のように扱うブラックな職場でもありません。

健全な職場とは、「父性」と「母性」が共存する職場です。

つまり、結果にコミットするが、それ同時にそのプロセスも同等に大切にする職場です。

しかし、この「心理的安全性」というのは、成果主義の副作用により、組織内の関係性の質が低下し、職場がギスギスしている、オフコミュニケーションが減った、風通しが悪くなった、といった職場の母性機能低下の文脈から生まれており、どちらかと言うと「上司は部下の意見を否定せず聴かないといけない」と言った部分だけが切り取られ、伝わっているように思います。

もちろん「部下の声を聞く」ということは上司として極めて必要な姿勢だと思いますが、だからといって、上が下に対して遠慮し、本来言うべきこと言えなくなってしまっては本末転倒です。

ただどうしても上司という立場はパワーが付与されるため、自分はそんなつもりはなくても、立場が弱い部下からすると強制されたように感じたり、反対意見を出しにくい、といった構造があります。

そういった力関係を上司がきちんと理解した上で、「僕はこういう考えだけど、君はどう思う?」「私が言ったことについて、あなたはどう感じている?」「言いにくとは思うけど、もし私とは違う意見があったら言ってほしい」といったように問いかけをし、コミュケーションが一方通行とならないための工夫が求められます。

「父性」と「母性」を併せ持った上司になる

人が本能的に求めているものは、「父性」と「母性」であることをお伝えしました。

ということは、あらためてマネジメントに求められる機能として、「父性」と「母性」の両方があることを私たちは理解しておく必要があります。

ただ、これを一人二役でやることは難しいため、トップとナンバー2、リーダーとサブリーダー、といったペアで組織やチームをマネジメントする、という方法をとっているケースは古今東西多くあります。

それも一つの方法だと思います。

しかし、ナンバー2はいつかトップとなり、サブリーダーはいつかリーダーになる、またはトップはまた大きなチームの単位のナンバー2になる、ということを考えると、仮に一方の機能しか使えない場合、立場が変わった時に往々にして壁にぶつかります。

これは、右利きか左利きかぐらいの癖に近いものであり、

右利きの人が左で物を扱うには訓練が必要です。

父性(先頭に立つ、引っ張る)よりの人は母性(裏方に回る、サポートする)が苦手であり、母性(裏方に回る、サポートする)よりの人は父性(先頭に立つ、引っ張る)が苦手であり、

そこにはこれまでのその人なりの生き方の癖があります。

そのため、リーダーやマネジメントの立場をやっていると、必然的に

母性が強い人は、父性を開花しなければならない壁にぶつかり、

父性が強い人は、母性を開花しなければならない壁にぶつかりやすくなります。

昔、ある課長さんが、「私の上司(部長)は仕事には本当に厳しい、でもとても優しい人なんです」と言われていました。

それは、まさに父性と母性を兼ね備えた上司の姿だと思います。

私は、リーダーとかマネジメントという立場が人を大きく成長させる最大の所以は、

元来身についている生き方の癖が、立場上起こる様々な葛藤を通して必然的に矯正され、バランスの取れた人格になっていくことにあると思います。

それは、まだ見ぬ自分との出会いであり、矛盾したものを持ち続けると言うことであり、きっとこれが人間的に成長していく、成熟していくということではないかと思います。

そのような意味では、ブラックすぎるとか、ホワイトすぎるといった外側の声に惑わされることなく、自分の中にあるどんな種(人格)が芽生えようとしているのか、という視点に立ってみるとよいかもしれませんね。

最後まで読んでいただき、有難うございました。

著者プロフィール 渥美崇史

  • 1980年静岡県浜松市生まれ。
  • 2003年、大学卒業後、ヘルスケアに特化した経営コンサルティンググループに入社し、評価制度や報酬制度の設計などの人事コンサルティングに従事する。その後、戦略や仕組みだけでは経営が改善されない現実を目の当たりにし、それらを動かすマネジメント層の教育に軸足を移す。2009年、マネジメントスクールの新規事業を立ち上げ、事業責任者を務める。約30,000人以上のマネジャーの成長を支援する事業に育てる。
  • その後、自社の運営にもマネジャーとして携わる中、トップの世代交代による経営危機に直面する。業績低迷、社員の大量離職が続く中、学習する組織、U理論といった組織論・変容理論に出会い、自身の人生観が180度変わるほどのインパクトを受ける。その知見を社内に持ち帰り、約2年間をかけて新しい組織文化への変革に取り組み、 当時の過去最高利益を達成する。その実体験と理論をベースにクライアントの組織変革を始める。
  • 2016年、13年間勤めた会社を退職し、独立する。社名の由来である”命の輝きを照らす”をミッションに、人間主体の組織マネジメントへの変革と自己のオリジナリティを生かしたリーダーシップ開発に力を入れている。
  • 好きな書籍は「自分の中に毒を持て」「星の王子さま」。自由・冒険・探求がキーワード。犬並みに嗅覚が鋭い。この世で一番嫌いなものはオバケ(極度の怖がりのため)。射手座AB型二人兄弟の次男。
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