次世代社会福祉法人の戦略構築法(Appreciative Inquiry)を考える ~スタッフ個々の夢や希望から逆算する画期的アプローチ~

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令和4年10月13日(木)~14日(金)、『第25回社会福祉法人経営青年会全国大会 ふくし×地方創生~多様性の時代のパイオニア~』が2日間に渡ってオリエンタルホテル福岡で開催され、2日目の14日、「次世代社会福祉法人の戦略構築法(Appreciative Inquiry)を考える ~スタッフ個々の夢や希望から逆算する画期的アプローチ~」というテーマで話をする機会を頂きました。

https://www.zenkoku-skk.ne.jp/workshop/zenkokutaikai-25/

本テーマは、まず制度・政策マネジメント委員会 委員長の園田氏より、日本が置かれている社会福祉の課題認識とその対策として地域のステークホルダーとの共生的な福祉実践の必要性についての投げかけがあり、次に私からその実践方法として、AI(Appreciative  Inquiry/アプリシエイティブ・インクワイアリー)の手法についてお話させていただき、最後に、制度・政策マネジメント委員会 副委員長の萱垣氏、委員の大久保氏より、実際にAI(Appreciative  Inquiry/アプリシエイティブ・インクワイアリー)の体験を通しての感想報告がありました。

※以下、講演録


(冒頭挨拶)・・・今回、AIについて話をしてほしいという依頼をいただきました。そこで、今日は少しでもこのAI(Appreciative  Inquiry/アプリシエイティブ・インクワイアリー※以下AI)という手法と、その背景にあるもの、なぜAIが必要とされているのか、そこには、今多くの組織や社会全体が抱えている停滞感や閉塞感を打破する鍵があると思っていますので、その辺を踏まえてお話できればと思います。

AI(アプリシエイティブ・インクワイアリーとは

では、まずAIとは何かについてです。AはAppreciative(アプリシエイティブ)のA、IはInquiry(インクワイアリー)のI、これら頭文字をとってAIと言います。今日お話するAIは、人口知能のAIとは違います。

AIとは、問いや探求(インクワイアリー)により、個人の価値や強みから組織全体の真価を発見し認め(アプリシエイティブ)、それらの価値の可能性を最大限に生かした取り組みを生み出すプロセス、と言われています。

その起源をたどると、アメリカの当時大学院生であったデービット・クパーライダー氏が地元のクリニックの調査プロジェクトから得た知見を論文で発表したことが起源と言われています。それは、病院が最も機能する要因を分析する際に、何をやっていて、何をやっていないかを調べるのではなく、組織が最高だったときのストーリーをインタビューして、それを全体の場でシェアしてもらうという方法をとったんですね。そしたら、次にインタビューを受けた人がその場にいなかった人にインタビューをし始める動きが起こり、組織の強みや価値をどう発揮するかといった議論や話し合いに発展し、組織の肯定的な側面にお互いに探求し合う姿勢が、組織のパフォーマンスを上げることに繋がり、その取り組みがグループ全体に広がったことをきっかけに、理論として体系化し、そこから実践で使われるようになりました。

日本に持ち込まれたのは2006年ぐらいから、その手法を伝えるために専門家が来日し、徐々に大手企業の組織風土改革やマネジメント変革の取り組みとして広がってきました。

AI(アプリシエイティブ・インクワイアリー)が注目された背景

ここで、なぜAIが注目されたのかについて日本の文脈からお話します。一言で言えば行き過ぎた成果主義、合理的経営の限界により、組織や人が壊れかけていた、ということです。これをMITのダニキムさんが提唱された、組織の成功循環モデルで説明したいと思います。

このモデルは、組織の関係性の質が高まると思考の質が高まる、思考の質が高まると行動の質が高まる、行動の質が高まると結果の質が高まる、と言っています。ではマネジメントは何をするかと言うと、結果と行動を管理するわけです。バブル崩壊後、成果主義によって更に結果がフォーカスされ、ある意味成果を出すためには何してもいい、何をさせてもいいという感じで、長時間労働、過労死、パワハラ、メンタル不全、マネジャーが成果責任を果たすこと拘りすぎて無理な営業をしたり業績数値を改ざんしたり、そしてこういう会社はブラック企業と言われるようになりました。

成果主義というのは非常に短期視点になるので、短期はよくても長期的にみると副作用として組織に様々な不調和が起こり段々とパフォーマンスが落ちてくるんですね。そうすると犯人探しが始まるわけです。結果がでないのは、あいつのせいだと成果を出している人が成果を出せない人、能力が低い人を責めるハラスメントが起こったり、個人主義が強くなるので縄張り意識が強くなり部署間の協力関係が希薄なり、面倒なことに手を出さなくなぅたり、関係性の質が下がるわけです。そうすると、ますます思考の質が下がり、行動の質が下がり、結果の質が下がる、という負のスパイラルに陥っている会社が増えていきました。

そういった中で、社会関係資本という概念が広まってきました。社会関係資本というのは、人々の絆なネットワーク、信頼関係が社会的な成果を生み出す資源であると捉える考え方で、上下関係による人間関係ではなく、水平的な人間関係を意味します。よく土壌に例えられますが、いい果実を育てるにはいい土壌が必要で、土壌が悪かったら何も育たないし枯れてします、その土壌というのがソーシャルキャピタルという考え方です。

そこで、元を辿って関係性の質から見直そうと、その手法として導入されたのがAIを代表とする対話型組織開発、という手法です。AIはその手法の一つなんですね。

この対話型組織開発の最大の特徴は、人と人の関係性のアプローチします。つまり、仕事だけの関係性でなくて、人間らしいコミュケーションを取り戻そうようと。当時、本当の話は会議ではなくたばこ部屋でされていると言われましたが、建前ではなく本音で対話ができる関係性を職場に取り戻していこうと、だから心理的安全性というワードが近年トレンドになっています。これはGoogleがアリストテレスという生産性向上のためのプロジェクトがパフォーマンスの高いチームの要素を研究して代表的な5つの最上位に来るものが心理的安全性という話です。

ただ一つお伝えしたいのは、これ実はもともと戦後の日本企業が非常に大切にしてきた考え方なんですね。例えば工場とかでは朝みんなでラジオ体操をしてお互いの様子を確認したり、社員旅行をしたり、会社で運動会をしたり、上司が部下を自宅に招いて一緒に食事をしたり、いつもドライな上司だけどオフでは優しい姿が見えたり、できる上司の運動音痴の一面が見れたり、そういった中で緊張と緩和のバランスをとっていたんです。でも成果主義がはいったころから合理的な経営が益々進んで、こういった一見成果に関係ないものがどんどん組織の中からどんどん削られてしまった。でも、今更運動会とかラジオ体操はさすがに時代に合わないので、気軽に真面目な話ができる関係を職場でつくっていこうという動きの中で心理的安全性とか、最近では1on1ミーティングとか、それこそAIといった手法が注目をされてきた背景があります。その他にも、OST、ワールドカフェといった対話型組織開発の手法や、学習する組織、ティール組織といった新しい時代の組織モデルが近年、注目されてきています。

AI(アプリシエイティブ・インクワイアリー)で扱われるテーマ

では、AIに話を戻していきますと、AIは様々な課題解決に使われています。例えば、国連でのAI、米国海軍ではリーダーシップ開発、病院や介護施設でも多く活用されていて、例えば、離職率30%と高くて悩まされていた病院が、AIから様々なプロジェクトが生まれ離職率が劇的に改善されたといった事例も多数報告されています。私の体験では、リーダーシップ開発の一貫で実施したり、行動指針をつくるというテーマで実施したり、組織風土改革のテーマで実施したり、500人を超える大規模のものあれば20人規模もあればと、様々な形式で実施されています。

ポジティブアプローチ

ここで、AIとこれまでの戦略構築法の違い、について大きく3つご紹介します。

一つ目は、ギャップアプローチではなく、ポジティブアプローチであるということです。ギャップアプローチというのは私たちが普段から当たり前のように使っている、課題を特定して、原因を分析して、そこに最適な解決策を見出し、実行するという課題解決のアプローチです。

一方でポジティブアプローチというのは、課題に目を向けるのではく、自分たちの強みや価値に探求します。そして、そこからどんな未来を創りたいか、どうありたいかを描く、なれるかどうかでなく、こうなりたい、こうありたい、という自分たちの思いや願い、夢をベースにし、そこから、現実的に何をすべきかに落とし込んでいく。

ギャップアプローチはあるべき姿が外側から与えられるのに対して、ポジティブアプローチは、ありたい姿を内側から生み出すんでね。

例えば、SWOT分析は、法人の強みや課題、機会、脅威といった視点から、分析的なアプローチで使って答えを導き出していきますよね。強みと言ってもそれはあくまで組織の強みです。AIはそれとは全く違い、まず1対1のインタビューから始まります。それも、その人の人生のストーリー、最高の体験、大切している価値観、どんな未来を望むのか、といった個人的なストーリーをお互いに聴き合い、一人ひとりの強みや価値を探求していくところから始まるんです。これが非常によくて、一つは、聴かれる方はエネルギーが高まる。もう一つは、1対1でやるので親密性が高まるですね。その人の背景ストーリーを聞くので、その人の見え方が変わり、認知が広がります。そしてそれを全体でシェアするので、普段の職場で知っている姿とは異なるその人を背景を知り、一気に関係性の質が高まります。そして、そこから一緒に未来のありたい姿を描いていく、そんなプロセスになっています。

脳科学のムーブメント

こうしたポジティブアプローチが注目される背景に、人間の行動の前提となる考え方そのものについてパラダイムシフトが起こっていることが大きく影響しています。それが脳科学のムーブメントです。

今、人材開発の最先端のテーマの一つに脳科学があります。これは、MRIの技術が確立したことたことで、1990年ぐらいから脳の解明が飛躍的に進み、人は合理的に動く生き物ではなく、極めて情動的な生き物であること、ポジティブな感情を頂くと、記憶を司る海馬へと信号が送られ、長期記憶が強化され、行動に繋がりやすいといった脳の作用が分かり、逆に、これまでの数値で評価するようなこれまでマネジメントや、課題を指摘して克服させるみないアプローチは、不安や恐れを助長させ、短期的には利いても、長期的にはやれされ感が強く、パフォーマンスが落ちていくといったことがニューロサイエンスの知見から明らかになっています。

そういったニューロサイエンスの研究結果をもとに、多くの企業がマネジメントの仕組みや人材育成のあり方を再構築し、ノーレイティング(段階づけの評価の廃止)や自己申告制で給与を決めるといった抜本的に異なるアプローチをし始めています。

ホールシステムアプローチ

AIとこれまでの違いの2つ目ですが、ホールシステムアプローチをという手法がベースにあります。

ホールシステム(全体システム)アプローチとは、ある課題について関係者を一堂に集めて対話によって意思決定する手法の総称のことを言います。多くの場合、トップや本部が組織の方向性を決めますが、ホールシステムアプローチは、そのテーマに関係する関係者をできるだけ多く集めて話し合いをします。

例えば一般的に何かプロジェクトを組むとき、能力が高い人やモチベーションが高い人を選抜しますが、AIは全体システムの縮図であるマイクロコズム(小宇宙)でメンバーをつくります。そのため、色んな職種、立場、やる気のある人、ない人もプロジェクトメンバーに入れます。なぜかというと、そういった人は実際に組織に存在するため、それらを無視して進めると逆に抵抗勢力になり分断が起こるんですね。だから、そういった人たちも含めて取り組む。私の実感としては、今までやる気なかった人とか経営に批判的だった人が別人にように変わったりということがよく起こります。

こういったアプローチが必要とされる背景は2つあります。一つは、少数のメンバーである意味トップダウンで物事を推進していくやり方は、やらされ感が強くて主体性がなかったり自分事化しないからです。もう一つは、精神論とか誰か一人の答えで解決できるほど問題が単純でいため、多様な立場からの対話を通して創造的な意思決定をしていくことが必要になってきたからです。

そして、この話し合いの特徴は場づくりにも顕れてるんですが、サークルになるんですね。これは対等であること、オープンであることをメタファーとして体現していて、上座がないんです。誰が偉いとかない関係ない、それと膝を出して話すというのは嫌がる人多いんですが、心理的に解放的になるんです。オープンに聴き、オープンに話すことが自然と生まれるような場づくりになっています。ネイティブアメリカンの話し合いの方法がよく例として出されるのですが、彼らはたき火を真ん中に囲ってみんなで話し合うんですね。長老も意見を言うけど決してそれは決定事項ではなく、子供も意見を言う、立場関係なく対話をして、自然で意思決定が生まれていくと言われています。日本でも車座で話すという文化がありますよね。

議論ではなく対話

ホールシステムアプローチは、議論ではなく対話をベースにしています。これは会話の4Levelを表したものですが、議論と対話の違いを表したものでもあります。

レベル1は表面的な会話です。例えば初めて知り合う人には、出身地はどんな仕事をみたいに当たり障りのない会話をして、相手が自分にとって危険な存在でないかを確認し、相手にとって自分が危険でないことを無意識に伝えるよう会話をします。そして、お互いに安全が確認できると、次にレベル2に移ります。これは対立的な会話です。ここではお互いに自分の考えを主張します。いわゆるここが議論、ディスカッションと呼ばれるものです。この段階は自分の意見が正しいという前提があるので、相手を説得すること、言い聞かせることが目的になります。ここの段階で起こりやすいのは、あいつは分かっていない、聴いてもらっている感じがしない、次第に諦めからレベル1の表面的な会話に戻ります。多くの組織ではレベル1から2を行ったりきたりしています。討論番組とかそうですね。そして、レベル3は探求的な会話とも言われていて、この段階になると相手の発言の背景に耳を傾けようとします。自分自身のその発言の背景や裏にある想いを語り始めたり、自己開示が始まります。そうすると相手の言っていることが自分事のように思えたり、分かってもらっているという感覚になります。深い会話になっていく感じです。そういった探求的な会話を続けていくと、そこから全く新たな知恵が出てきたり、今まで絶対に無理と思い込んでいたことが自然とみんなの合意で決まったり、ということが起こります。それがレベル4ですね。

日常的な会議だと、レベル1からレベル2の中で意思決定されることが多いですが、AIはインタビューで個々人のストーリーに耳を傾けるので、自然とレベル3に行けるようなプロセスになっており、そこが対話をベースにした意思決定方法である所以だと思います。

以前、ある病院の経営層でAIを使って中期経営計画をテーマに合宿会議をしたんですが、一つのグループが職種のヒエラルキーのないある一つの職場像をビジョンとして描いたんですね。その後、そこへの思いをある幹部がシェアしてくれ、現場では医師にものが言えない、医師のパワハラがある、そしてそういった医師の教育が見過ごされている、といった話があり、それについて幹部全員で対話しました。一方で、医師側にもそれをやりきれない背景の共有があり、それでも最終的には専門職としてそれぞれが自立して協働しあえる職場をつくろうという話になり、医師、看護師、事務の幹部が入り、まさにマルチステークホルダーのメンバーでプロジェクトが立ち上がりました。これはまさに創造的な意思決定で、こんな話し合いになるとは誰も予想してなかったわけです。対話というのは予定調和じゃなんですね、落しどころを決めない、けど何か予想もしなかったことが立ち上がる、そういったことがよく起こります。

アートによる共創体験

そして、3つ目がアートによる共創体験です。AIのプロセスでは、自分たちの強みや価値観を探求していたったり、そこからビジョンを描いたりするんですが、そこは直観や感性を使って、自分たちの強みをアートで表現したりするんですね。例えば、未来を描くというプロセスの際に即興劇というものを取り入れたりします。例えば、30年後の自分たちが望む未来を描くとなったらその未来の一コマを寸劇によって自分たちで表現します。

AIには8つの原理というものがあるんですが、その一つに体現の原理というものがあります。これは、本当に変化を起こすためには、自分たちが望む変化そのものになる、という考え方で、今がまさに望ましい未来そのものであるかのように自分たちの身体を使って体現することで身体感覚として未来を感じ取ることをねらいとしています。

実際、この寸劇をやってみて聞く感想というのは、一番やりたくなかったけど、やってみて一番良かったのという声が非常に多くて、ある意味子供ように童心に戻って遊ぶんですね。それを30分でという短い時間でメンバーと共にビジョンを創り上げる、その共創体験が身体感覚を通して人の感情に強く訴えかけるアプローチだからだと思います。ポジションが上がるとどうしても理性的になりますが、そういった人ほど普段から解放される感じで、自由に創造力が表現される。ここで一気にエネルギーが高まります。

アート(感性)を取り戻す

実はこういった感性を経営の中に取り戻そうという動きが近年加速しています。少し前に「世界のエリートは美意識をなぜ鍛えるのか」というビジネス書をベストセラーになりました。要はグローバルな企業の幹部がアートスクールに幹部候補を送り込んだり、リベラルアーツや哲学を学んだり、絵画を見たり、音楽を聴いたり、文学や詩を読んだり、要は教養を身に付けるといった動きが加速しており、日本企業でもそういった動きが出ている。なぜかと言うと、今日のような、複雑で正解のないVUC A社会においては、分析、論理、理性に軸足を置いた経営、サイエンス重視の意思決定は、では解決できない、という主張なんですね。そういう中では、論理的に意思決定をするという力だけでなく、一方で、自分なりの美意識に照らし合わせて意思決定する態度が求められる、だから今必死になって幹部は感性や哲学を磨いている、という話です。

この書籍の中で書かれているエクササイズを一つ紹介します。「エジソン」と「実験工房」、この2つ文字を見て共通するものは何でしょうか、という問いです。

どうでしょう、おそらく「発明」といったワードが思い浮かぶのではないでしょうか。でも、ここで言いたいのはそういうことではなく、純粋に「見る」ことをした場合、何が共通するでしょうか、ということですね。

はい、エジソンの「エ」と実験工房の「工」が同じ、ということですね。私たちは大人になると思考が発達し、2つの文字を読み、共通要素を導き出し、発明という解を導き出す、いわゆるパターン認識を覚えます。ちなみに、幼稚園児は5秒で「エ」と「工」が同じと答えるようです。それは子供は「読む」ことができず「見る」ことしかできないからのようです。思考が発達するというのはパターン認識力が高まる一方で、ある意味純粋に「見る」力を失わせてしまう、という話です。

でも、きっと私たち人間は何歳になっても、花を見たら美しいと感じるし、月を見たら綺麗だな思う、そういった純粋な心があると思うんです。そういった人間が本来もった美意識を経営の意思決定の中に取り戻していく、ということが今まさに求められているのだと思います。

統合的アプローチ

そして、これはケン・ウィルバーという思想家が提唱した世界を見つめる4象限と呼ばれるものです。私たちは、ある同じ事象を見た時に大きく4つの見方があるということです。

まず、左上は個人の内面、私が主語になる「好きとか嫌とか」感情や思考といった主観的な領域です。そして右上は、個人の外面、それが主語になる客観的な事実として認識できる能力や行動の領域です。左下は、私たちが主語になる集団の内面です。関係性や雰囲気、共有されている価値観や文化とも言い換えることができます。そして右下は集団の外面、それらが主語になる、これは制度や行動、システムといった領域です。

このインテグラル論を提唱したケン・ウィルバーがよく言うのは、「どの領域も正しい、でもそれは全体の一部である」という話です。何を言ってるかというと、私たちは大なり小なり見方に偏りがあり、その偏った見方から問題を捉えようとする側面がある。でも、それは全体の一部であり、全てではない、しかもしの視点に優劣はないということです。

インテグラルとは統合的、包含的という意味なのですが、実際に社会や組織の課題というのは、それぞれの領域がそれぞれの領域に影響し合っているので、4つの象限から物事を捉え、更には4つの象限すべてに働きかける統合的なアプローチが必要だということです。そして、AIのアプローチは左側の目に見えない、個の内面や集団の内面からアプローチする方法なんですね。一方SWOTとかの分析的アプローチは右側の個の外面や集団の外面といった目に見える領域へのアプローチになるんですが、経営がサイエンスよりになるとどうしても右側のアプローチに偏るわけです。どちらが優れすぐれているという話ではなく、両面からのアプローチが必要ということです。

AI(アプリシエイティブ・インクワイアリー)の4Dサイクル

ではあらためて、AIのプロセスについてお伝えします。これはAIの4Dサイクルと呼ばれるもので、基本的にAIはこの4つのプロセスを回していきます。

最初がディスカバリー、発見ですね。ここでは、自分の強みや大切している価値観をといったことを、1対1のインタビューで探求していきます。次にドリーム、夢ですね。ここでは、強みや価値を最大限に発揮したときの最大限の可能性の未来やビジョンを寸劇といった方法を使って体現します。そして、デザインです。ここでは、より描いた未来像を実現するためにどうあべきか、現実的に何を成し遂げていく必要があるのかを決めます。そして、最後にディスティニー、運命です。ここでは実際のアクションプランをつくる、という流れになります。

これを大体丸2日、ほとんどは場所を変えて合宿形式でやることがほとんどです。アートへのアプローチというのは中々現実の延長線上でやることは難しいので、できるだけ一人の人間として参加できる非日常的な空間をつくる、というのが肝になります。

AI (アプリシエイティブ・インクワイアリー)により期待される効果

先ほどもお伝えしましたが、AIは様々なテーマで活用されていますが、私のこれまでの経験的にいうと、トップダウンが強くて受身的な社員が多い組織、職場がギスギスしていたり社員が疲弊している組織、あとは世代交代のタイミングで新しいトップを管理職のチームビルディングをしたり、事業拡大してステークホルダーが多く一体感を失われていたケースとか、AIは関係性にアプローチするので、福祉業界については、今後、リテンションというか、人材定着をテーマした取り組みが今後増えていくのではないかと思います。

社会福祉法人におけるAI (アプリシエイティブ・インクワイアリー)の可能性

そして、今後のAIの可能性としては、自組織の課題を解決するということだけにとどまらず、地域の社会課題を解決してくために、市民や行政、企業や研究機関といったステークホルダーを巻き込みながら、創造的な実践を生み出していく手法としての活用が期待できるのではないかと思います。いち組織でできることには限りがあるので、中小企業では、協働して社会課題に取り組む動きがあったり、企業間で人材を共有したり、といった動きが出ていて、福祉はまさに社会課題を扱う領域であるため、色んなステークホルダーとAIを使って解決していくということが可能性として考えられると思います。

最後に、AIとは、人々の中に潜在的にある純粋性(美や善)にアプローチするプロセスであり、新時代に必要となるマネジメントOSの基本思想を体現するものであり、社会福祉法人を取り巻くステークホルダーとの共生的な実践を具現化するための手法であり、新時代において、人が本当に生きたいと思う社会を、一人ひとりが主体者となって共に創り上げていくための一手、であると思います。

AIは手法でもあり思想哲学でもあります。それは、私たちが人や組織、社会とどう関係していくかというこれまでの固定観念からのパラダイムシフトでもあると思います。今日この瞬間から、AI的なアプローチで人と関わっていく、一人ひとりがAIの実践者となることを期待し、私の話とさせていただきます。ご清聴ありがとうとざいました。

登壇者プロフィール 渥美崇史

  • 1980年静岡県浜松市生まれ。
  • 2003年、大学卒業後、ヘルスケアに特化した経営コンサルティンググループに入社し、評価制度や報酬制度の設計などの人事コンサルティングに従事する。その後、戦略や仕組みだけでは経営が改善されない現実を目の当たりにし、それらを動かすマネジメント層の教育に軸足を移す。2009年、マネジメントスクールの新規事業を立ち上げ、事業責任者を務める。約30,000人以上のマネジャーの成長を支援する事業に育てる。
  • その後、自社の運営にもマネジャーとして携わる中、トップの世代交代による経営危機に直面する。業績低迷、社員の大量離職が続く中、学習する組織、U理論といった組織論・変容理論に出会い、自身の人生観が180度変わるほどのインパクトを受ける。その知見を社内に持ち帰り、約2年間をかけて新しい組織文化への変革に取り組み、 当時の過去最高利益を達成する。その実体験と理論をベースにクライアントの組織変革を始める。
  • 2016年、13年間勤めた会社を退職し、独立する。社名の由来である”命の輝きを照らす”をミッションに、人間主体の組織マネジメントへの変革と自己のオリジナリティを生かしたリーダーシップ開発に力を入れている。
  • 好きな書籍は「自分の中に毒を持て」「星の王子さま」。自由・冒険・探求がキーワード。犬並みに嗅覚が鋭い。この世で一番嫌いなものはオバケ(極度の怖がりのため)。射手座AB型二人兄弟の次男。
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